私が助産師になった昭和52年(1977年)、今から47年前は、「泣いたからといってすぐに抱っこすると、抱き癖がつくのであまり抱かない方がいい」と言われ、当時の育児書にもそのように掲載されていました。 私は内心「泣いたら抱っこしてあげたらいいのに」と思いながらも、子どものお祖父さんお祖母さんまでもが抱き癖をつけない方がいいと言っている中、新米助産師が口を挟むこともできず、かといってこちらからはあえて「抱き癖」という言葉は使わずに育児指導や相談を行っていました。
当時の出生数は年間200万人弱(2022年は77万人)で、合計特殊出生率は1.8前後(2022年は1.26)でした。 私が勤務していた公立の病院は年間分娩数が約400件。お産の数はさほど多くありませんでしたが、初産婦の入院日数が1週間、経産婦が5.6日、帝王切開後は2週間と現在より長かったため、ベビー室には常時10人ほどの新生児がいました。 新生児はよく泣いていました。授乳は大体3時間毎で、褥婦さんにベビー室へ来てもらい、赤ちゃんの体重を測定して直母をし、その後に体重を計り、飲んだ母乳の量を計算して、不足分のミルクを哺乳瓶で補っていました。 新生児は看護者がベビー室で見るのが当たり前の時代です。 授乳時間は決まっていましたので、授乳時間外の啼泣は、オムツ交換をして、バイタルサインなど一般状態が問題ない子は、空腹の兆候があればミルクを少し補足し、何もなさそうな子は泣いてもあまり抱っこせずに様子をみていました。 忙しいというのもありましたが、その頃の子育て観「抱き癖がつかないように」というのもあり、結構泣かしていたように記憶しています。 「新生児は泣くとその分肺が強くなる」と年配の助産師、そして医師までもそのように提唱していました。私は泣いている児を交互に抱っこしながらも、「忙しいでしょう!」といった視線と雰囲気の中、新生児が安心できるまで十分に抱っこすることはできませんでした。
お母さんの子宮の中は環境温が一定です。振動はあるものの、子宮や羊水に包まれて緩衝されています。騒音も直接は胎児の耳に入りません。 光も同様です。とても穏やかな安心できる部屋で、胎児は24時間何か月も生活します。 生まれた瞬間から環境が一変します。環境温は約10度下がり、眩くてさまざまな騒音が聞こえます。 手を伸ばしても、子宮の中にいた時のような柔らかいものには触れません。居心地よくありません。まだ不安や恐怖といった感情は分化されていませんが、出生時の不快の感情は強いと思います。 病院によっては出生後早期にお母さんの胸に抱っこされるカンガルーケアをしています。その時のほわ~とした赤ちゃんの顔は、安心感に包まれ満たされている表情そのものです。
赤ちゃんは安心を求めています。居心地のよい安全を欲しています。 新生児の触覚は五感の中で一番敏感です。やさしく赤ちゃんの肌に触れたいものです。 あたたかい抱っこで包んであげましょう。お母さんお父さんのやわらかく穏やかな声を聞かせてあげましょう。新生児でも、心地よければ満足気な表情をします。