子どもたちが生きていく上で大切なこと、それは誰かから愛されていると実感していること。ありのままの自分を受け入れてくれる人がいることです。
もう15年以上前になります。年長の男の子と家族の話をしていました。そのとき彼が「おばあちゃんがね」と言うので、どちらのおばあちゃんなのかと問うと、「お母さんを産んでくれたおばあちゃん」と言いました。「産んでくれた」、その温かい響きと、愛されていることを実感している5歳児のやさしい表情に、心がほっこりしたことでした。今でもその場面とその子の表情を覚えています。
小さいときからの家族を思いやる言葉や態度、「産んでくれた」を大切にする思い、そのような心を育むこと、それが性教育、生きるための教育だと思っています。本来それは特別なものではなく、生まれたときから日々の生活のなかで自然に培われるものですが、今の社会では意識して向き合わなければならない領域かもしれません。
私は1977(昭和52)年に22歳で助産師となり、数年間命の現場に立ち会いました。それから病院のNICUで小さな命とそのご家族に向き合い、その後は母乳育児相談室で0歳児・1歳児の子育ての悩み相談をしてきました。お母さん方からお話を聞くなかで、子どもの育ちを大事に子どもも保護者も安心できる小規模園を立ち上げたいという思いが芽生え、めぐみ保育園/母と子の相談室を開設しました。4年前に園はなくなり、今は保育専門学校の非常勤講師や、支援アドバイザーとして園を訪問したりして、日々保育学生や保育者、乳幼児期の子どもたちと接しています。
訪問先の園では、年中児たちが満面の笑顔で「おしりプリプリ、う・ん・ち」の大合唱。他園では保育者から、年長組男女数人の“おいしゃさんごっこ”対応の相談。別園では4・5歳児男女が一緒にはだかでシャワータイム、などなど。このような場面に関してはさまざまな考え方や価値観があります。私と同世代や上の世代では「まだまだ子ども! かわいいじゃないか」と思われる方が多いことでしょう。
大切なことは子どものウェルビーイングです。まず子どもの気持ちに寄り添いましょう。子どもの声を聞きましょう。さまざまな場面で「いや」と言えずに抑圧されている子どもがいるかもしれません。体は女の子なのに、いわゆる女の子の格好をしたくない子どもがいるかもしれません。性に関して「性器とかいやらしい言葉を口に出したらダメよ」と言われている家庭環境では、性器を見られたり触られたりしたとき、自分から大人に相談することはできません。何も言えず口をつぐみます。性教育は人権を尊重することです。私たち保育者は、子どもたちをウェルビーイングに導く性教育を学び考え、実践していかなければなりません。